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2022/10/20

障害のある従業員への安全配慮

平成27年の実雇用率は1.88%(法定雇用率は2%)に上昇し,今後,中小企業においても障害のある従業員がより身近になっていくことが予想されます。そのような中,平成28年4月1日から,改正障害者雇用促進法(平成25年改正)が施行されました。
改正点は次の3つです。

 

①雇用にあたって障害を理由に差別的に取り扱ってはならない


 

②障害者が働く際に支障が生じないよう改善しなければならない(合理的配慮の提供義務)


 

③障害者からの苦情を自主的に解決する努力をしなければならない


※詳細は厚労省ホームページ参照

 

 

改正点①によって,車いすを使っていたり,人工呼吸器を使っていたりする人も,そうでない他の人と同様に雇用され,入社してくることになります。そうすると,当然,その人において他の人と異なる支障が生じえますので,改正点②に関し,どのような支障が生じてくるかを注意深く確認し,改善できる部分は改善していかなければなりません。
また,「支障」だけではなく,「危険」が生じる場合もありますが,その危険が現実化しないようにするのが会社の安全配慮義務です。

 

 

会社は,すべての従業員に対して,その生命,身体等の安全を確保しつつ働けるようにしなければならないという安全配慮義務(労働契約法5条)を負っています。以下,いくつかの裁判例をあげます。

 

 

例1)知的障害者が寮での火災から逃げ遅れて亡くなった例
「判断力,注意力,行動力が劣るものであるから……不測の事態が発生したような場合……(障害の)程度に応じた適切な方法手段によって安全な場所に避難させ,危難を回避することができるようにする安全配慮義務がある」(大阪高判S58.10.14労判419号28頁)
→近くの部屋の従業員等の協力を得て,緊急時の避難方法を定めておくことが考えられます。

 

例2)知的障害者(2級程度)が機械の吸い込み口に巻きこまれて亡くなった例
事件当時障害者が取り扱っていた機械が,従前その障害者が担当していた機械と異なる初めてのものであったことや,機械が停止するというトラブルへの対処をしようとしての出来事であったことを考慮。
「慣れていないことや予期せぬトラブルに臨機に応じて対処することが能力的に困難であると認識していたのであるから……トラブル時に適切な指導,監督を受けられる体制を整える必要があった」(東京地八王子支判H15.12.10労判870号5頁)
→慣れるのに十分な期間が経過するまでの間,指導担当をつけたり,トラブル時に必ず担当者に報告するよう指示したりすることが考えられます。

 

例3)身体障害者(5級)の関節リウマチが悪化した例
「重量物の運搬は不適当であることを認識の上……雇用した」「自然経過によるもの以上に悪化することのないようその業務内容に配慮する義務を負っていた」(大阪地判H27.2.23労経速2248号3頁)
→関節リウマチを抱える当該障害者にとって関節痛等の負担の少ない作業をその都度検討し,障害者の了承のうえ代替作業を提案すべきだったとされています。

 

 

 

以上のとおり,障害のある従業員については,そうでない従業員とは異なるレベルの安全配慮義務が課されているようにもみられ,特に規模の小さい企業においては,負担を避けるため,障害者採用自体を躊躇したくなるかもしれません。
しかし,上の3つの例をみると,緊急時の避難方法,慣れない機械を操作する際の指導監督体制,トラブル発生時の対処法,身体の痛みを考慮した人員配置…と,内容的には必ずしも障害者にのみ必要な安全配慮義務ではありません。障害の程度にもよりますが,新入社員や,怪我をしたり病気になったりした従業員への安全配慮義務と重なる部分が多いようにも思われます。
会社としては,全ての従業員の働く環境に関わることだととらえ,前向きに対処していくことが,会社の社会的評価も高めることにもつながるでしょう。

 

 

当事務所では,社内の安全管理体制向上を図る社内セミナーもお引き受けいたします。内容は個別のご要望にお応えいたしますのでご相談ください。

 

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