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2023/02/09

会社の従業員に対する損害賠償請求 ~従業員のミス,どこまで追求!?~

会社を経営していると,従業員が職務遂行にあたり会社に損害を与えることも少なくありません。また,従業員が第三者に損害を与えたときには,使用者責任として第三者に対して損害賠償しなければならないこともあります。
典型例としては交通事故が挙げられますが,最近では,従業員が情報漏えいや説明義務違反により顧客等の第三者に与えた責任も,追及されることが増加しているようです。

 

会社としては,会社が負担した損害について,従業員個人に対して求償したいところです。
民法715条3項をみると,会社の従業員に対する求償が認められているのは明らかです。
しかし,わざとではなくミスだという場合の会社の従業員に対する求償は,大幅に制限されているのが実情です。
単なるミスというのでは求償できず,簡単に防げることを防ぎきれず重大なミスをした(重過失がある)という場合でなければならないうえ,求償の範囲が4分の1程度に限定されている事案が少なくありません。

 

会社の従業員に対する求償が制限されるのは,
「会社は事業を行っていく上である程度のリスクを受忍しているはずである」という考えや,
「会社はその事業を従業員にさせることによって利益を得ているのだから責任を負うべきである」という考えがもとにあり,会社と従業員とで損害を公平に分担するという見地から調整がなされるのです。

 

会社が従業員に対して追及する責任は,会社と従業員との間の雇用契約に基づくものですから,雇用契約の内容や勤務実態等が考慮されることになり,単純に従業員に責任があるからといって全額を求償できるものではないのです。

 

リーディングケースとなる茨城石炭商事事件(最判昭和51年7月8日)では,
「事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度」
が考慮要素として挙げられています。
具体的には,次のように考慮されます。

 

①事業の性格,規模
その会社がどのような事業をどのような規模で展開しているのかといったことは,公平の見地という観点から会社の負担すべき責任の範囲に影響を与えます。事業規模が大きく高額の利益をあげているほど,会社が負担すべきとされる範囲は広がる傾向があります。

 

②業務内容
たとえば,同じ“運転”業務でも,その車両や機械の特殊性により,損害が発生する危険度は異なります。また,同じ“パソコンを用いた事務処理”業務でも,扱う情報の機密性によって,危険度は異なるでしょう。

 

③労働条件
夜勤や長時間労働のように,通常より従業員の負担が重くなる労働条件の場合,それにより増加した危険(ミスが増えること)について,会社が受忍していると判断されるおそれがあります。

 

④勤務態度,加害行為の態様
その従業員の日ごろの勤務態度や,その損害発生時の従業員の行為態様が,従業員個人に責任を負わせるべきかどうかの判断に影響します。
上記②や③とも関連しますが,当該業務内容や労働条件下において誰でも起こし得るミスであれば,会社の負担とされる可能性が高いでしょう。他方,従前に同様の事故が起きておらず,当該従業員個人の落ち度が大きいような事案であれば,従業員個人に責任を負わせるべきということになります。

 

⑤会社の配慮の程度
会社がどこまでの配慮をしなければならないかというのは,上記①~③と相関関係にあります。
業務内容(上記②)や労働条件(上記③)がはらむ危険が大きいほど,会社の配慮は高く求められることになります。
もっとも,どこまで余裕をもって人員を配置できるかといったことや,どこまで高度な安全システムを導入できるかといったことは,会社の事業規模(上記①)に大きく左右されるところです。
大企業と中小企業とでは,求められる配慮の範囲に自ずと差が生じるでしょう。
過去の裁判例で考慮されている会社側の対応としては,労働組合との協定締結等,会社と労働者との間における労働条件に関するやり取りの内容や,産業医の指導助言を受けていたか否かといったことが挙げられます。

 

 

事故は起こらないに越したことはありません。
しかし,万が一事故が起きてしまった場合,会社は従業員に求償出来るのか,できるとしてどのような範囲なのか…会社のリスク管理の一環として,会社の従業員に対する損害賠償請求についても,一度お考えいただければと思います。

 

 

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