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2023/03/09

【判例紹介】都市再生機構事件(東京地裁平成29.11.10判決)~不活動時間の労働時間性~

労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働者が労働から離れることを保障されていて初めて指揮命令下に置かれていないものと評価することができるため、実作業に従事していない不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には,労基法上の労働時間に当たることになります。

そして、不活動時間が労働時間に該当するか否かは、「労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否か」により客観的に定まるとしています(最高裁判所平成12年3月9日判決)。
会社として、従業員に、会社所有の携帯電話の所持を義務付けるなどして、休日の緊急対応を求めることもあると思います。この場合、携帯電話を所持して、緊急対応に備える場合というのは労働時間にあたるのでしょうか。

 

 

1 事案の概要


本件は、都市再生・住環境・災害復興・公害環境に関する業務を行う独立行政法人に勤務する原告が、携帯電話を持たされ、休日においても3時間以内に現地集合できるように指示されて休日に待機していたとして、主位的に時間外手当の支払いを求め、予備的に不法行為に基づき手当相当額の損害と精神的損害の賠償を求めた事案です。

 

 

2 判決のポイント 


東京地裁は、①原告は、被告貸与の携帯電話を渡され、事故等が発生した場合の連絡を受けるように指示されていたこと、②原告の自宅の電話番号を記入した連絡網を渡すよう指示されたこと、③原告が休日に当該携帯電話を持っていなかったことについて上司が注意したこと、④資料に「(連絡)~3時間」に「総務課長は現地に集合」と記載されていること等の事実の他、⑤被告から原告に事故発生後3時間以内に到着するようにという明示的な指示はなかったこと、⑥平成25年度から平成27年度において携帯電話に連絡が入ったことはなかったこと、⑦原告において自宅待機していた事実はなかったこと等を認定しました。

そして、他の資料から見ても、「現地に赴く(できる限り早く)」などとなっているから、資料に「(連絡)~3時間」に「総務課長は現地に集合」と記載されているのは、対応の目安を記載したにすぎず、原告がこの資料の記載について積極的に待機の必要性の有無を確認した事実がないことからすると、原告も資料によって待機が指示されていたと理解していたわけではないと推測されるとしました。
その上で、原告は、休日の事故対応という業務を担当していたとしても、休日について、労働からの解放が保障されていたというべきで、使用者の指揮命令下に置かれていたとは言えず、原告の主張する時間外労働は労働時間とは言えないとして、原告の請求をいずれも認めませんでした。

不活動時間が労働時間にあたると評価される場合には、労働時間が長時間化し、時間外手当の問題を生じることはもちろんですが、働き方改革における時間外労働の限度時間との関係でも問題となります。
 

 

今回のケースについて、「緊急対応の携帯電話所持が義務づけられていても労働時間性は否定される」という一般化するのは早計です。本件は、マニュアルの存在や、それに基づく会社としての指示がなかったこと、原告が休日待機と言いながら外出していたことなどの事実が認定されたことが労働時間性が否定された大きな要素だと考えられます。
休日において何らかの業務を義務付けている会社においては、どのようなマニュアルや規程があるのか、実際にどのような指示をしているのかなど、具体的に検討することが必要です。

 

 

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