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2022/11/24
労働契約の締結(採用内定・内々定)
1 はじめに
日本における正規従業員の採用過程(新卒)は、企業からの採用募集に対して求職者が応募し、書類審査・面接等を経て合格者に採用決定の通知(内々定)を出し、10月1日の内定式で採用内定通知書を送付する等して内定に至るのが通常です。
その後、健康診断の実施等を経て、4月1日に入社式と辞令の交付に至ることが多いですが、この間に発生した非違行為や企業の経営状況の変化等を理由に、採用内定の取消し(以下「内定取消」といいます。)がされることがあります。
内定取消に対して、内定者側はどのような救済を受けることができるのか、ひいては企業側の法的リスクはどのようなものかについて、以下で検討します。
2 内定取消の適法性について
⑴ 採用内定の法的性質
企業による採用募集は労働契約の「申込みの誘引」であり、応募・採用試験の受験が労働者による「申込み」、そして、これに対する企業からの採用内定通知の発信が企業による労働契約の「承諾」と理解されています。すなわち、採用内定通知により、企業と内定者との間にはすでに労働契約が成立しているという見方が一般的です。
そのため、採用内定後は、すでに当事者が契約関係に拘束された段階に至っており、この取消し(解約)は自由になし得るものではありません。
実際に、最高裁も、採用内定により労働契約自体は成立しているものの、この契約は「始期付」及び「解約権留保付」であり、留保された解約権の行使(すなわち内定取消)は、客観的に合理的で社会通念上相当として是認することができる場合に限り認められると判断しています(最高裁昭和54年7月20日判決)。
⑵ 内定取消(留保解約権行使)の適法性
内定取消の適法性は、解約権留保の趣旨・目的に照らし、解約権の行使が権利濫用に当たらないか(客観的に合理的で社会通念上相当と認められるか)を個別具体的に判断する必要があります。これは内定通知書等の内容に関わらず強行的に適用されますので、内定通知書等に記載された内定取消事由に該当したからといって、直ちに内定取消が可能となるわけではありません。
例えば、内定者の虚偽申告や非行等については、企業秩序を乱し信頼関係を損なうような重大な内容・程度であったか否かが問われますし、確実な証拠に基づくものでなければなりません。
また、企業側の経営状況の悪化を理由とする内定取消は、整理解雇法理に準じた取り扱いが求められるため、①人員削減の必要性、②内定取消しを回避するための努力、③人選の合理性及び④手続の妥当性を考慮要素として適法性を判断することになります。
なお、中途採用者については、事案の性質を踏まえて始期付解約権留保付労働契約が成立しているか否かを個別具体的に検討し、同契約が成立していれば同様の観点から内定取消の適法性を判断することになります。
以上より、内定取消は容易に認められるものではなく、これを行う際にはその適法性を慎重に検討する必要があります。
3 内定取消が無効となった場合の法的効果
内定取消が無効となった場合、労働者側から、労働契約上の権利を有する地位確認請求が認められ、企業側に賃金支払義務等が発生します。また、違法な内定取消に対する不法行為又は債務不履行を理由とする損害賠償請求も認められる場合があり、特に採用内定を受けたことを理由に他社を退職した中途採用者への内定取消は、比較的高額の賠償が認められることが多いです。
他方で、労働者側からの取消しについては、少なくとも2週間の予告期間をおく限り自由になし得ます(民法627条1項)。
4 採用内々定について
内定日に行われる正式な内定通知書の交付等より前に、採用を事実上決定した旨の口頭での告知(いわゆる「内々定」)が行われることが多くあります。
もっとも、一般的に内々定の段階では企業・求職者双方とも労働契約の確定的な拘束関係に入ったとの意識には至っておらず、求職者が就職活動を継続して複数の会社から内々定をもらうことも多くあります。そのため、内々定段階では、始期付解約権留保付労働契約の成立が認められることは多くありません。
しかし、企業側から採用を確信させるような具体的な言動があり、他社への就職活動を妨げるような事実上の拘束がある場合等は、労働契約が成立していると解釈される可能性があります。また、内々定の段階で、採用予定者が内々定を承諾した旨の書面の取り交わし等を行う例もありますが、このような事実は内々定段階での労働契約の成立を推認させる重要な要素となり得るため、企業側は注意が必要です。
さらに、労働契約が成立したとまでは解釈できなくとも、相手方に対し十分に事情を説明せず、その信頼を不当に損なう態様で内々定を取り消した場合等は、契約締結上の過失を理由に不法行為責任が発生する可能性があります。
5 おわりに
内定(内々定)の取消しは、特に企業・求職者間で労働契約が成立していると解釈された場合、その有効性が争われたり、企業側に損害賠償リスクが生じることもあります。
この判断には明瞭な基準があるわけではなく、個別具体的な事案によって結論が左右され得るため、実際に取消しの措置を行う場合は事前に専門家にご相談頂くのが望ましいといえます。お困りの際はお気軽に弁護士法人アステル法律事務所にご相談ください。