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2023/09/01

労働時間の把握について -みなし労働時間制

新聞や雑誌の記者,外回りの営業社員,在宅勤務,モバイル勤務等…何時から何時まで勤務したかを会社が把握するのが難しい業務は少なくないでしょう。

 

そのような場合に,使用者は,労働時間の算定が困難であるとして,所定の時間働いたとみなせたら非常に便利ではないでしょうか。

 

その要望に応えるのが,みなし制です。

特に,労働者からの時間外割増賃金の支払請求を受けたときの会社側の対抗手段として効果的な場合もあります。
労基法38条の2第1項本文では,①事業場外で業務に従事した場合において(事業場外労働)②労働時間を算定しがたいとき(労働時間の算定困難性),「所定労働時間」労働したものとみなされるとされています。
過半数労組との労使協定があるときには,協定で定める時間が「業務遂行に通常必要とされる時間」となります(同条2項)。
※協定には有効期間の定めが必要(労基施行規則24条の2第2項)。

 

ただし,各要件を充たすかどうかは注意深く検討する必要があります。
自宅=事業外(要件①)だからといって,ただちに自宅=労働時間を算定しがたい(要件②)ということにはつながりません。

 

要件②について,使用者の具体的な指揮監督が及ぶ以上は,「労働時間を算定しがたい」とは認められないのです。
しかし,携帯電話等により事業場外での連絡が取りやすくなった現在,使用者の具体的指揮監督が及ぼせると判断される範囲が広がっており,容易には「労働時間を算定しがたい」と認められなくなっているというのが現状です。

 

以下,判例を紹介します。
【否定例】


■阪急トラベルサポート派遣添乗員第2事件 最判H26.1.24
「業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等,本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等に鑑みると,勤務状況を具体的に把握することが困難であったとは認めがたい。よって,労働時間の算定が困難とはいえない。」
→考慮要素
・会社から添乗員に対する旅行日程に沿った旅程の管理業務の具体的指示あり。
・変更を要する事態が生じた場合,個別の指示あり。
・内容の正確性を確認し得る添乗日報による業務遂行状況の事後的報告あり。
・携帯電話の電源は常にON。
・日程変更は原則NG。変更が生じないように管理し,変更は必要最低限で。
・重大な問題発生やクレーム対象のおそれのある変更時には報告・指示待ち。

 

 

【肯定例】


■日本インシュアランスサービス(休日労働手当・第1)事件 東京地判H21.2.16
保険に関する調査及び報告書の作成業務。
会社から宅急便等で自宅に送付される資料に基づき,直行直帰で確認業務に従事。
→考慮要素
・労働のほとんど全部が会社の管理下になく,従業員の裁量の下にその自宅等で行われている。
・休日における報告書作成時間等も,会社において管理しているものではなく,作成に要した実時間を会社において知ることができるものではない。
・業務職員も会社に報告していないし,また実際にも会社が把握してはいない。

 

 

そして,厚労省は,「在宅勤務に関するみなし制適用の判断基準」(H24.3厚労省)として下記のとおり基準を示しています。
①当該業務が,起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。
②当該情報通信機器が,使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
③当該業務が,随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。

 

 

これらのことからすれば,社用携帯等により,随時指示・連絡がなされているような場合には,みなし制を利用するのは困難でしょう。
みなし制を活用できるのは,従業員に裁量が大きい,専門業務型(開発・設計・デザイン等)や企画業務型(企画・立案・調査・分析)といった業務が主ということになりそうです。

 

 

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