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2023/08/26

賞与の性格と支払義務

賃金同様,賞与請求権(支払義務)の根拠も,従業員との合意です。

多くの会社では就業規則に何らかの賞与の支給規定が定められており,その内容が従業員との合意内容となってきます。
しかし,たとえ形式的には就業規則上に賞与の支給規定があっても,具体的な支給率や金額について定められておらず,個別の合意や慣行もないような場合もあるでしょう。

そのような場合,実際には具体的な賞与請求権は発生しないと解されています(江戸川会計事務所事件・東京地判平成13年6月26日労判816号75項等)。

 

また,賞与については,支給日に在籍していることを賞与支給要件としている会社も少なくないでしょう。

そのような場合,支給日前に会社を辞めた(支給日に在籍していない)者については一切支払わなくてもよいのかどうかが問題となり得ます。

 

支給日前に会社を辞めた者に支払うべきか否かは,賞与の具体的な性質によります。
賞与にどのような意味を持たせるのかについては,それぞれの会社で異なります。

①月給を補う生活補てん的な性格であったり,②従業員の貢献に対する功労報償的な性格であったり,③将来の労働に対する勤労奨励的な性格であったり,④企業成績の収益分配的な性格であったり,これらの複数の性格を有していたりします。
③の性格であれば,支給日に在籍していないものに全く支払わないというのも可能なように思われますが,実際には,①や②の性格が,日本の社会的な風習等からなかなか全否定できません。そのため,支給日に在籍していないからと言って一切支払わないとすることは容易ではありません。
なお,④の性格であっても,分配がある場合には,勤務していた期間について割合的に支払うべきと考えられ,支給日に在籍していないことのみをもって一切支払わなくてもよいとはなりづらいでしょう。

 

以下の大和銀行事件では,賞与が①と②の性質を有するとして,支給日前に辞めた者にも支払わなければならないと判断しました。

 

他方,ベネッセコーポレーション事件では,冬季賞与について,年内に退職するか否かで差異をもうけていることについて,③の性格があることから一定の差異を認めつつも,②の性格が否定されているものではないとして,退職を理由とする基準額の減額を2割に限定しました。
逆に言えば,③の性格を明示できていれば,一定の範囲内で基準額を減額することができると考えられます。

 

賞与にどのような意味を持たせるのかというのは,従業員のモチベーションの向上そして会社の業績向上にもつながる事柄ですから,一度ご自身の会社における賞与の意味を再考してみられるとよいかもしれません。

 

【支給日在籍要件を充たさなくても賞与を支払うべきとされた事案】
・大和銀行事件(最判S57.10.7)
①社会的風習として,夏季と年末の一時的な出費増と密着した生活補給給与としての賃金支払形態が定着していることに加え,②「支給月の前決算期間の勤務を算定し支給されてきたもの」であることから,勤務と報酬が客観的な事実的な相関関係にあり,本件賞与は賃金としての「勤務の対価」として「勤務とともに発生」していたとして,支給日に在籍していたか否かで賞与請求権が左右されないと判断された事案。

 

【一部の減額が認められた事案】
・ベネッセコーポレーション事件(東京地判H8.6.28)
年内に退職予定が有るか否かにより支給内容に差異を設けた冬季賞与の支給基準について,「賞与額決定要素として従業員の将来の活躍に対する期待を加味することには一定の合理性が認められる」としつつも,「賞与の趣旨が基本的に当該従業員の実績に対する評価にあり,賃金としての性質を有する」として,将来への期待が小さいことを名目に従業員の賃金を実質的に奪うことになることを考慮し,「非年内退職者の賞与額の2割を超えて年内退職予定者に対する支給額を低額にしている部分」について一部無効,すなわち,年内に退職する人と退職しない人の際は最大でも2割までと判断した事案。

 

 

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